プリズムレンズの眼鏡
30代前半の頃、係長試験の試験勉強をしていたら、猛烈に首肩が痛くなってしまった。
勤め先には、あんまさん常駐のマッサージルームがあったので、そちらに駆け込んだ。
「こりゃぁひどい。視力どれくらい悪いの?」
会社にいるあんまさんは、ほぼ全盲。目の前の私の体の状態から、いろいろ聞いてくる。
普段から片目だけで日常を送っていること、両眼視ができないこと、視力の差が激しいこと等を説明した。すると彼は一言。
「なんで、メガネかけないの?」
かけた。子どもの頃。就学前と、小学生のとき。2度もメガネを作ってもらった。
かけなくなったのは、わずらわしいから。そして、かけ続けていれば良くなると、思えなかったからだ。
「あなたの眼は、僕みたいに病気というわけではないんだから、治るよ。僕が行っている眼鏡屋さんを紹介してあげるから、行ってみたら?」
その言葉を信じて、眼鏡屋へ行った。視機能検査を行うだけで、1時間以上かかった。
「左右差がかなりあるし、上下もずれてますね。100M先のものを、18M差で見ている状態です」
1.8Mではない。18M。広すぎる。
そして、プリズムレンズ(※)のメガネを処方され、かけるようになった。
3年間で3回、度を変えたと思う。はじめに作ったメガネは、瓶底メガネだ。
「日本で、あなたの眼に合うレンズを薄く作れるところがないんです。次は薄いのになると思いますから、我慢してください」
瓶底メガネは重い。そして、なによりも目が辛かった。
目玉をくりぬいて、洗面器でジャブジャブ洗いたい衝動に駆られてしまう。
それでもかけつづけ、次のレンズは薄くなり、その次のレンズはさらに薄くなった。
40歳を過ぎてからは、プリズムが入ったレンズを使用し続けないほうが良いと思い、普通のレンズに変更する。
プリズムが入ると、べらぼうに値が張る。レンズだけで5万円は軽くかかってしまう。
しかし、それよりも「特殊なレンズに眼が慣れてしまうと、眼そのものが治る努力を怠るのではないか」と考えるようになった。
真面目にメガネをかけるようになってから、20年近くになる。
50歳目前という年齢は、加齢による視力減退が顕著になる頃だ。
両眼視が出来るようになったわけでもなければ、老眼が良くなったわけでもない。
それでも「視力障害克服」という迷路の出口を、見つかるまで探し続ける。
当面の目標は、「60歳、裸眼でしっかり見える」だ。
※参考までに GLASSFACTORY「プリズムレンズによる眼位矯正とは?」 |