気の病理
生理物質の病態は、虚証(不足や機能減退)と実証(有余や停滞)に大別される。
気の病理も同様に、気の不足と気の滞りが主な病理変化である。
気の不足による病態
気虚
気の化生および供給が不足したり、ひどく消耗したために、気の量が減少し、各種作用が機能しなくなった病態。
【原因】
①飲食物の摂取不足 → 気を化生する量が減少
②大病・長患い・過労 → 気が消耗
③気の化生に関わる臓腑の機能が低下 → 気を化生する量が減少
【症状】
①倦怠感・無力感
気が不足する
↓
全身に栄養が行きわたらず、活動力が低下する
↓
疲れやすく、身体に力が入らない
②眩暈(めまい)
気虚により頭部に栄養が届かないために発生する
③息切れ・懶言(*1)
宗気や肺気が不足すると、呼吸や発声に影響が出る
④自汗(*2)・易感冒
衛気が不足
↓
腠理の開闔が障害される
腠理が開いたままになる
↓
汗が漏れ出たり邪気が侵襲しやすくなる
↓
自汗や易感冒などの症状が起こる
*1 懶言(らんげん):物憂い話し方のことで、話すことも億劫で面倒くさがる
*2 自汗:暑さや労働などにかかわらず、汗が出やすい → 動くとより一層汗が出る
気陥
気虚と気の上昇不能という2つの病理が重なって起きた病態。
気虚の症状に加えて、内臓下垂や慢性の下痢など、下に落ちる現象がその特徴。
【原因】
慢性的な気虚・過労・多産・産後の不養生などで気が損傷される
↓
気機に影響を与える
【症状】
①気虚の症状
気陥は気虚により気機が失調した状態
↓
一般的な気虚症状を伴う
②胃下垂・脱肛・子宮脱
上に向かわせる気機が失調
↓
組織・器官を正常な位置に保っておけない
↓
下垂症状が起こる
③慢性の下痢
脾の運化機能が低下
↓
飲食物の消化・吸収が十分に行われずに小腸・大腸へ流れ込む
↓
便がゆるくなる
(新たな気が化生されず気が補われないため慢性化しやすい)
気脱
気虚が極限にまで悪化した病態。
病状は重篤で緊急を要することが多い。
【原因】
慢性的な気虚や極度の過労 → 気がひどく消耗される
大量出血や激しい嘔吐などにより血や津液がひどく流失 → 気をひどく消耗する
【症状】
①呼吸が浅くなる
宗気の不足が激しくなると呼吸に影響を及ぼす
②意識を失う
気は生命活動の根本
↓
損傷が激しくなると意識にも影響が及ぶ
③顔面蒼白・四肢の冷え・脈弱
気虚により推動作用や温蚫作用がはなはだしく低下する
↓
血を全身に運ぶことや人体を温めることができなくなる
④強い自汗
気虚により固摂作用がはなはだしく低下
↓
津液が外に漏れ出し、ひどい時には玉のような汗が吹き出る
気の滞りによる病態
気鯵・気滞
気鬱:気機が鬱結し、軽度な気の循環障害が起こった病態。
気滞:気鬱が発展し、その程度が強くなったもの。
気が滞ることで脹悶(脹って苦しい)や疼痛が起こる。
気の滞りは「時に流れ、時に滞る」という状態になりやすく、増悪と緩解を繰り返し不安定となりやすい。
【原因】
①情志の変化は気機に影響を及ぼす→過剰な情志の変化により気機が鬱結する
②邪気によって気の流れが滞る
【症状】
①脹痛
脹るような感覚を伴う痛み
②胸悶・胸肋部痛
情志の変化が生じる(心と肝は精神活動に重要な役割を担う)
↓
胸郭や胸肋部など、心と肝に関係する領域の気機が阻害される
↓
痛みや不快感が生じる
③腹部の膨満感
気の流れが悪くなる
↓
消化器系の動きにも滞りが生じる
↓
腹部の膨満感が起こる
④抑鬱感
気機の鬱結が精神面に影響する
↓
抑鬱感が現れる
気逆
気の上昇運動が過度となり、下降運動が不十分であるために気が上逆した病態のこと。
気鬱・気滞と同様に、過剰な情志の変化や邪気によって起こるため、気鬱・気滞・気逆の病態はともに影響し合って起こることが多い。
【原因】
①情志の失調などにより、上昇する気機が過剰になる
②邪気に気機が阻まれ、下降すべき気が下降できずに行き場を失い、逆に上昇してしまう
【症状】
①易怒(肝気上逆 )
過剰に上昇した気機が情志に影響を及ぼす
↓
イライラ(急躁)しやすく、怒という感情が起こりやすくなる
②頭痛・眩暈
気の上昇が過剰になる
↓
上部(頭部)で生理物質が滞る
↓
頭痛や眩量などの症状が起こる
③咳嗽・喘息(肺気上逆)
邪気が肺の気機(昇降)に影響を与える
↓
呼気・吸気の平衡を保つことができない
↓
咳嗽や喘息が起こる
④悪心・嘔吐・曖気・吃逆(胃気上逆)
邪気により気機が阻まれる
↓
過剰に上昇する気機の影響を受ける
↓
気が逆行する
↓
悪心・嘔吐・暖気・吃逆などの症状が起こる
(胃の正常な気機は下降することにある)