腎とその関連領域

腎を中心とし、その機能に関連した領域には、腎・膀胱および腎と関係する組
織・器官などが含まれる。

蔵精

精を貯蔵する機能。
精の生理作用や全身の生理活動の調節 = 腎の機能。
飲食物から得られた精は、必要に応じて五臓に分配され、余剰分は腎に貯蔵される。
この腎に貯蔵された精を腎精という。

精を貯蔵する

生理精を貯蔵
人体の構成や生命活動を維持するために必要な精が漏れ出さないようにしている
病理人体の椛成や生命活動に必要な精の量を碓保することができない
 ↓
精の機能や生命活動の調節に影響を与える

精を貯蔵することができない
 ↓
遺精など生理物質が漏れ出す症状が起こる
生命活動の維持に深く関与している

精の機能
腎精 = 気血を生み出す基本的な物質
精 = 髄に化生され髄海を滋養する

生理腎精を気血に化生することにより成長・発育を促進する
腎精が充足すると天癸が化生され、生殖機能が備わる
病理精が不足して成長・発育に必要な気血が不足する
 ↓
成長不良・発育不良などの症状が起こる

精を十分に気血に化生することができない
 ↓
人体の抵抗力が落ち、虚弱体質や易感冒などの症状が起こる

精の不足により天癸が十分に産生されない
 ↓
不妊症・無月経・陽萎性欲減退などが起こる

精が不足すると、髄海を滋養することができない
 ↓
耳鳴・難聴・眩最・脱毛・健忘などが起こる

生命活動を調節する
腎精は腎陰と腎陽の化生に関与。
腎陰と腎陽は全身の陰陽の平衡を維持することに関与、腎精は生命活動の調節を行う。

生理原気は腎精から化生 → 三焦を通って各臓腑に輸布される
輸布された原気は各臓腑の生理機能の原動力となる
病理腎精が不足し、原気が十分に化生されない
 ↓
臓脈の機能が減退して倦怠感や無力感が起こる

陰陽の平衡が維持できない
 ↓
陰虚になる → ほてり.のぼせなどが起こる
陽虚になる → 寒がり.冷えなどの症状が起こる
腎陰:腎に貯蔵された精、腎精から化生された血、腎によって調整された津液による滋潤作用と寧静作用のこと。元陰、真陰、腎水とも呼ばれる。
腎陽:腎精から化生された原気による推動作用と温順作用のこと。元陽、真陽、命門とも呼ばれる。

主水(水を主る)

水液代謝を調節する機能。
腎は肺や脾の機能を補助し、排泄にも関与しているため、水液代謝の要といわれる。
肺や脾を補助して津液を循環させ、二陰の開闔を行うことにより人体中の必要な水液を保ち、不要な水液を体外に排泄している。

飲食物から得られた水液 → 脾の運化によって肺に送られる(腎陽の温り、作用は脾を温めて水液の運化を助ける)。
肺に送られた津液 → 宣発により全身に輸布され、粛降により腎に集まる。
腎に集まった津液のうち再利用できる津液 → 腎陽によって再び肺に戻され、全身に輸布される。
不要な津液 → 尿に変えて膀胱から排泄されるが、膀胱の開間は腎陽(腎気*’)によって行われる。

生理水液代謝を行うとともに、津液の量を調節する
 ↓
陰陽の平衡を保ち、生命活動の維持に重要な役割を果たす
病理腎の機能失調により主水に影響が及ぶ
 ↓
津液を肺に送り届けることができず、痰湿となり浮腫が起こる

水液の排泄に支障をきたす
 ↓
下痢、夜間尿、小便不利などの症状が起こる
※腎気の虚損で起こるが、腎陽が不足するとより顕著になる
腎気:腎精から化生され、腎の機能を発揮する物質または腎の機能そのものを表す。
腎の精気(腎精と腎気)は、腎の機能を通じて生命活動の維持に深く関与している。
二陰:前陰と後陰の総称。前陰は外生殖器と外尿道口を含み、後陰は肛門を指す。

納気
腎の生理特性である封臓の現れ。
呼吸は肺の機能だけでなく、腎の納気による補助を受けて初めて、正常な機能を発揮することができる。

生理吸気を補助して深く吸い込ませ、呼吸のバランスを保つ
病理納気が不十分となり、深い吸気ができない
 ↓
咳嗽・喘息・呼吸困難などの症状が起こる
納気の失調は、腎気の虚損により、気虚による症状を伴うことが多い

封臓
生理物質を漏らさず貯える・内におさめるという、腎の生理特性のこと。
蔵精・納気・主水は封蔵という特性の現れである。
腎気が旺盛であれば、封蔵の特性が発揮され、精は腎におさまり、吸気の深度を保ち、水液代謝を調節して人体に必要な水液を維持することができる。

生理生理物質が漏れ出るのを防ぎ、生命活動に必要な生理物質を確保し、人体の恒常性を維持する役割を果たす
病理蔵精に影響 → 遺精や性機能の減退などが起こる
主水に影響 → 浮腫・夜間尿・遺尿などが起こる
納気に影響 → 呼吸困難などが起こる
腎の機能が失調すると、精・気・津液などが漏れ出る症状が起こる

陰陽の根本
各臓脈の陰陽は、腎を通じて化生された生理物質の供給補充により維持されている。
腎は他の臓肺と異なり、気・血・津液・精すべての化生に関与しているため、陰陽の根本と称される。

生理腎精から化生された血や、腎に流通する津液を他の臓肺に供給している
 ↓
供給された血や津液は、各臓腑の陰としてその機能を発揮する

原気を他の臓腑に供給している
 ↓
供給された原気は、各臓肺の陽としてその機能を発揮する
病理陰虚や陽虚は腎の機能が失調して起こることが多い
②各臓肺の陰陽を補助しているため、その他の臓肺から発症した陰陽の失調であっても、疾病の経過が長引くと最終的には腎に波及することが多い

関連領域

骨、髄、髪
髄は精から化生され、部位によって骨髄、脊髄、髄海と呼ばれる。
骨は髄によって滋養される。
精は髄に化生され髄海を滋養し、目や耳などの五官を養っている。
骨におさまっているものを骨髄といい、髄海に連なっているものを脊髄という。

生理歯は骨余といわれ、歯も精の滋養を受けている
 ↓
精が充足すると骨や歯は丈夫になる

髪は血余といわれ、精から化生された血の滋養を受けている
 ↓
髪の色・艶・量は、血および血を化生する精の盛衰が反映される
病理精が不足すると、骨を滋養することができなくなる
 ↓
小児:発育不全・奇形などが起こる
成人:骨密度が低下 → 骨折しやすい・歯がぐらつくなどの症状が起こる
骨が十分に滋養されないと、体重による負荷に耐えられず、腰や膝に症状を訴えることが多い。
精が髄海を十分に滋養できないと、五官に影響が及び、視力の低下・耳鳴・難聴・健忘などが起こる
髪に影響が及ぶと毛髪は白くなり、抜けやすくなる。

耳、二陰
「腎は耳に開竅す」といわれ、腎と耳は密接な関係にある。
二陰とは前陰と後陰の2つを指し、その開闔は主に腎気・腎陽の力によって行われている。
これらの関係から「二陰に開闔す」といわれる。

生理精によって髄海が十分に滋養される
 ↓
耳も正常な機能を維持することができる

腎精が充足する
 ↓
生殖機能も本来の力を十分に発揮することができる
病理髄海の滋養が不十分になる
 ↓
耳鳴りや難聴が起こりやすい

腎気・腎陽が不足して二陰の開闔に影響を及ぼす
 ↓
夜間尿.遺尿(おねしょ)・泄瀉(下痢)などの症状が起こる

精の不足が生殖機能に影響が及ぶ
 ↓
不妊症・不育症・陽萎(ED)・性欲減退などが起こる


口腔内の津液であり、腎精が変化したもの。

生理気功や導引では唾を飲み込むことにより腎精を養うことが養生法として実践されている
病理唾が多すぎたり、ダラダラ流れ出たりする
 ↓
腎精を消耗しやすい

腎精が不足すると唾が少なくなる
 ↓
口腔の乾燥感などが起こる。


思考、記憶、経験などを保存していくこと。
腎の生理特性である封蔵と関係が深い。

生理思考、記憶、経験などを保存して、根気強く物事を継続する
 ↓ (そのために)
腎の機能が正常に発揮されることが必要
病理腎の機能が失調すると、封蔵が働かなくなる
 ↓
根気強く物事を継続して行うことができない・
物忘れが激しい(健忘)などの症状が起こる

恐、驚
腎の機能が失調すると、その特性である封蔵に影響が及び、気機が下ったり乱れたりする。

生理(記載無し)
病理腎の機能が失調し心神に影響を及ぼす
 ↓
動悸、失禁、ひきつけなどが起こる場合がある

恐れや驚きという精神的な刺激が急激に発生したり長期に持続
 ↓
気機の失調が腎に影響を及ぼす
気機が下ると恐という情志が発生しやすくなり、些細なことで怖がったり、ビクビクしやすくなる
気機が乱れると鷲という情志が発生しやすくなり、些細なことで驚いたり、小さな音でびっくりする


鹹(塩からい)味は下す.軟らかくする、散らすなどの作用がある。
鹹味は、腎の機能と深く関係していると考えられている。

生理適度に摂取
 ↓ 過度の封蔵を抑制
水液代謝を調節するなどの作用を通じて腎の機能に寄与する
病理過度に摂取
 ↓ 封蔵に影響を及ぼす
生理物質が漏れ出る→二次的に陰液を損なうことになる
 ↓
陰虚や血幌などの病態が起こる場合がある
これらの病態によって、高血圧や多尿などが起こる

腎は陰陽の根本であり、特に陰液が旺盛な臓腑。
冬の自然界(生物は冬眠し植物は種子となる)と、腎の生理特性(封蔵)は相似しているため、冬と腎の機能は密接な関係があるとされている。
腎 = 冬に相応。陰が旺盛になる季節。
冬の気候変化に腎は影響されやすい。