肺とその関連領域
宣発・粛降(宣粛)
宣発
宣布(広く行きわたらせる)・発散(外へ発し散らす)を意味する。
気や津液を上へ外へと輪布する機能。
①体内の濁気を体外へ排出
生理 | 呼気によって体内の濁気を体外へ排出する |
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病理 | 宣発が失調 ↓ 咳嗽・呼気不利などの症状が起こる |
②津液と衛気を輸送して体表に到達させる
生理 | 津液と衛気を体表に到達させるとともに鼻竅(びきょう)を通す |
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病理 | 宣発が失調して津液と衛気を体表に到達させることができない ↓ 発汗の異常や鼻閉などの症状が起こる |
宣発の失調や衛気の不足が起こると衛表不固となり、自汗、易感冒が起こる。
※衛表不固とは、衛気が不足し体表で腠理の開闔(そうりのかいごう)が行えず、気や津液を固摂できない状態で、衛外不固ともいう。
粛降
清粛(清らかで静かなこと)・下降を意味する。
気や津液を下へ内へ輪布する機能。
①気道を清潔に保ち、自然の精気を体内に取り込む
生理 | 吸気で清気を取り込むことにより気の化生に関与 ↓ 脾で吸された水穀の精微 は粛降によって取り込まれた清気と合わさり宗気となる |
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病理 | 宣発が失調して津液と衛気を体表に到達させることができない ↓ 発汗の異常や鼻閉などの症状が起こる |
②気機を下降させる
生理 | 粛降は全身の気機を下降させる ↓ 胃の降濁や大腸の伝導作用を補助 |
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病理 | 粛降が失調 ↓ 咳嗽・便秘・深く吸い込むことができないなどの症状が起こる |
③津液を腎まで輸送(通調水道)する
生理 | 粛降は水分代謝に関与する ↓ 脾によって送られてきた津液を全身にめぐらせ、腎まで輸送する |
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病理 | 粛降が失調して水分代謝に影響が及ぶ ↓ 浮腫.・多痰・小便不利などの症状が起こる |
宣発・粛降の協調運動
宣発と粛降が協調して働く → 生理物質の推動および呼気と吸気の平衡を維持
胸中で化生された宗気
↓
そのまま血脈中に流れ込み
↓
宣発、粛降、疏泄などの補助を受け
↓
血を全身にめぐらせている
(脈外の気や津液も宣発、粛降、疏泄などの機能により全身をめぐっている)
生理 | 生理物質を推動して全身に行きわたらせる過程において、気をめぐらせる |
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病理 | 宣発・粛降が失調し、血脈中の生理物質を椎動することができなくなる ↓ 血脈の運行が障害され、胸悶・血流障害などの症状が起こる 呼気と吸気の平衡を保つことができない ↓ 咳嗽・喘息・息切れなどの症状が起こる |
全ての血は一旦 肺に朝(集)めてから運行され、全身を巡って再び肺に戻ってくる
↓
「肺は百脈を朝ず」といわれる
さらに宣発と粛降が協調して機能することにより、呼気と吸気の平衡が保たれている。
主気(気を主る)
宣発と粛降が協調して気の化生と気機の調節を行う機能。
呼吸を主る
呼吸は、宣発と粛降の協調作用により維持されている。他の臓脈の補助を受けて行われており、宣発と粛降は気の化生・気機の調節・血脈の推動・水液の輸布など肺の機能すべてに関与している。
生理 | 自然界の清気を吸入し、体内の濁気を呼出して、人体内外の気を交換する機能 |
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病理 | 臓腑の機能失調や外邪の侵襲などが肺の機能に影響する ↓ 呼吸に障害が起こり、咳嗽・喘息などの症状が起こる |
※呼気と吸気のバランスやリズムは、宣発と粛降の協調運動により行われており、これを管理・調節する機能のことを治節という。血脈の推動や津液の輸送も宣発と粛降の機能に内包されているため、治節による管理・調節を受けている。
一身の気を主る
肺は気の化生と運行に関与し、気機において重要な役割を担っているため、一身の気を主るといわれる。
生理 | 宗気の化生と術気の輸布に関与する 気を上下内外に動かす |
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病理 | 肺の機能が失調して、気の化生や気機に影響が及ぶ ↓ 息切れ・咳嗽・喘息などの症状が起こる |
肺は、華蓋および嬌臓という特性から、外邪や上逆・上炎の影響を受けやすく、他の臓腋に比べて機能の失調が起こりやすい。
華蓋:天子の車につけた傘のこと。外邪の侵襲を防いで臓脈を保護する役割をたとえた言葉。
肺は人体の上部に位置し、体表に津液や衛気を輸布し、体表から外邪が侵襲するのを防ぐ役割を担う。
臓脈の中で一番上にあることを意味する。
嬌臓:弱々しい臓脈を意味し、肺は機能の失調が起こりやすい特性があることを表している。
関連領域
鼻・涕
鼻は、清気と濁気の出入り口であり、涕によって潤されている。
肺と体外をつなぐ器官であるため、肺の機能と密接な関係にある。
生理 | 肺の機能が正常であれば、呼吸や嗅覚を正常に保つことができる |
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病理 | 外邪の侵襲などにより肺の機能が失調する ↓ 鼻閉・鼻汁などの症状が起こり、呼吸や嗅覚に影響を及ぼす |
皮・毛
あわせて皮毛とも呼ばれ、皮膚・汗孔・体毛を含む体表の組織のこと。
皮毛は術気と津液によって温胸・滋潤され、外邪の侵襲を防ぐ役割に関与する。
肺は衛気や津液を宣発によって体表に輪布しているため、肺の機能が失調すると、体表にある皮毛に影響を及ぼす。
生理 | 膜理の開闇を通して体温を調節している |
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病理 | 外邪の侵襲などにより肺の機能が失調する ↓ 易感冒・皮膚の乾燥・掻痒感などの症状が起こる |
魄
生理 | 感覚・運動・情志などの本能的な精神活動を主る |
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病理 | 肺気が虚損することにより全身に気の散布が行えない ↓ 様々な感覚異常が発生しやすい |
憂・悲
肺気が不足すると、憂い、悲しみやすくなる。
憂・悲は、気が鬱滞する、気が消耗するなどの気機の異常を生じ、気の化生や気機の調節と密接な関係にある肺の機能に影響を及ぼす。
辛
生理 | 発散・行気させるなどの作用がある ↓ 適度に摂取することによって肺・大腸の機能に有利となる |
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病理 | 辛味を過度に摂取すると、気や津液の発散・行気が過剰となる ↓ 気の消耗や熱化が起こり、肺や大腸の機能に影響を及ぼす |
肺は清潔で適度に乾燥した環境で正常な機能を発揮する。
肺=秋に相応、秋の気候は乾燥して清涼な季節。
秋の気候変化に肺は影響を受けやすい。